いなば農園代表インタビュー

今回は広島県三原市大和町において、苺を中心とした農園を営んでいる「いなば農園」のインタビューを行いました。大和町の田畑に囲まれたビニールハウスにおいて栽培された苺は、一般的にスーパーで販売されている苺と比べて明らかに後味がマイルドなのに加え、尖った酸味が無いので非常に口当たりがよいのが特徴です。まざぁーずうぉーむと共同で開催したイベントにおいてもその評価は高く、お客様より多くの称賛の声を頂いております。そんな苺を生産するいなば農園の代表である稲葉氏についてまとめました。ご覧ください。

1 農園について
2 農園を始めるに至った経歴
3 農業への思い

1 農園について
いなば農園は広島県三原市大和町において苺を中心に、米も栽培する小規模な農園です。大量生産型の空中トレー等の技術で栽培するのではなく、大地が持つ自然の地熱によって栽培する土壌栽培にこだわっており、減農薬栽培はもちろん栽培期間中は特に苺本体に農薬がかからないようにするなど、お客様に安心して食べていただける苺栽培を心がけています。苺はJAの産直市や直売のみならず、インターネットにおいても販売しており、苺を購入された多くのお客様より高い評価を得ているようです。インタビュー中に栽培している苺を試食させていただきましたが、その味は冒頭でもふれたように「尖った酸味の後味」が無いのです。筆者は今まで「苺というものは酸味が強く、特に後味の酸味に特徴があるものだ」と考えていました。しかしこの苺は特に甘さが強いわけではないのに酸味をあまり感じず、味全体として非常にマイルドで食べやすいものでした。一般的なスーパーで売られているような苺は早摘み(苺が赤くなる前に収穫する方法)されていますが、いなば農園では完全に熟してから収穫する方法を採用しており、このこともいなば農園の苺の味の形成に一役買っていることは間違いないでしょう。小規模で事業自体に派手さは無いものの、確かな栽培方法で独自のスタイルを貫いている、それがいなば農園です。

2 農園を始めるに至った経歴
いなば農園代表の稲葉氏は今でこそ独自のスタイルを確立していますが、もともとはグラフィックデザイナーとして広島市にある会社勤めをしており、会社を退職するまでの十数年の間、農業とは全く無縁の生活を送っていました。グラフィックデザイナーとしての十数年間は、行政や民間から請け負ったパンフレット作成等の業務をこなす忙しい日々でした。グラフィックデザイナーの世界はかなり独特な世界なようで、筆者なりに極端な言い方をするとすれば、ごく一部の突出した才能を持つ人間のみにスポットライトが当たり、その他の人間は与えられた仕事をこなすだけという非常に格差が激しい業界のようです。そのような業界の中で、稲葉氏の心の中である葛藤が起こり始めます。「今、自分がやっている仕事は、自分でなくてもいいのではないか?」、稲葉氏はこう考えるようになりました。稲葉氏はグラフィックデザイナーとしての自らの将来の展望が見えなくなっていたのです。もちろん稲葉氏の技術が劣っていたわけではありません。例えば稲葉農園の現在のホームページは稲葉氏がひとりで制作したもので、シンプルながら非常にセンスフルなものとなっており、稲葉氏のプロフェッショナルとしての技術を垣間見ることが出来ます。ただ会社勤めをしている時には「自分が一から作り上げている」という満足感が得られなかったのです。
そんな葛藤の中、稲葉氏はある決断をします。「自分が主導権を持って何かをしたい、妻の実家で農業をしよう」、こう考えた稲葉氏はそれまで十数年間、勤めていた会社を退職、以前から興味のあった妻の実家の苺農家を継ぐことにしました。
さっそく広島市内から三原市大和町に引っ越しを済ませた稲葉氏は、まず三原市が行っている研修に参加、農業のノウハウの基礎を学ぶことから始めます。さらにその後は実際に大和町内の農業法人に勤めることにより、様々な種類の農作物を育てる経験を積み、大和町に移住してから数年後、ついに現在のいなば農園代表に就任したのです。
いなば農園の運営を始めた稲葉氏は「大量の農薬を使用する大量生産型」ではなく、「規模は小さいが自分の目の行き届くところで出来る苺栽培」をモットーに、独自の農業スタイルを確立していきます。例えば空中トレーや全自動室内暖房機、多数の農薬による品質管理等、現在の苺栽培における最先端技術による栽培方法ではなく、あくまでもなるべく自然に近い形で栽培する方法を採っています。確かに空中トレーやプランターなどは徹底した効率化が図れますが、あくまで自然の地熱を利用する土耕栽培によって栽培し、小規模な農家だからこそ行える「目の行き届く苺栽培」が稲葉氏のポリシーです。

3 農業への思い
「農業は楽しいですよ」、稲葉氏は率直にこう答えます。農業を始めてから良い部分も悪い部分も見てきた稲葉氏ですが、それらをすべて考慮したうえで「シンプルに楽しい」という思いが、現在行っている農業に対する素直な気持ちだということです。筆者はインタビューを進めていくうちに稲葉氏のこの「農業は楽しい」という感情が、「自らが主体性を保持して、運営を行うことが出来ている」という要素に起因するのではないかと考えるようになりました。そこで「自分自身がこの事業の主役であることが、一番大きいですか?」とダイレクトに質問をぶつけてみました。すると稲葉氏は「そうですね。毎年、色々挑戦して色々失敗するけど、自分の目の届く範囲内で出来るのがいい。必ずひずみが生まれるから過度な利益追求型にはしたくない。自分のやりたいことをやり続けたい。まあ私は自分からはあまり話さないタイプですが…」と語る稲葉氏の目がやりがいに満ちているのを、筆者は見逃しませんでした。「今、自分がやっている仕事は、自分でなくてもいいのではないか?」と感じていたデザイナーの職を退職してから数年、現在の稲葉氏は「いなば農園の主役」となってやりがいに満ち溢れた農業生活を送っています。そして多くのお客様から高い評価を頂くまでに成長しました。「将来の展望は?」と聞くと、「特に農園を大きくしようとか、攻めの農業をしようとは思っていません。あまり大きく儲けようとは思ってないので。パートの人くらいは雇いたいですが…。地道にやっていくのが好きなんですよね。少しずつコツコツやるというか。まあ、自分なりにやりたいことをやっていきたいです。自分は結構わがままなので…」と、笑顔で答えます。これまでの農園での経験を通し、稲葉氏はいなば農園において自らのアイデンティティを確立できたのではないでしょうか。自らが「主人公」になれる場所「いなば農園」において、稲葉氏はこれからも様々なことに挑戦し、自らのスタイルを追求してくれることでしょう。

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